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スウェーデンの医師ハンス・ロスリングや、フランスの経済学者ジャック・アタリは、子どもの生存率と教育が、その国のGDPを押し上げると語っている。子どもの教育と、経済と国力は深く関係しているのだ。
教育へのアクセスを広げようと、オンライン教育が世界中で始まった。テクノロジーによって、均一教育ではなく、一人ひとりに最適な問題を用意して、成長をサポートする技術も生まれ、教育のパーソナライズ化が急速に進んでいる。
これからの時代を創造的に、豊かに生きるためには、どのような学びが大切なのだろう? そしてその学びをどう社会、経済活動につなげていくのだろう?
これからの創造的な学びについて、考えていきたい。
[概要]
日時:2020年7月21日(火) 10:00~11:30
カタリスト:星 友啓さん(Stanfordオンライン高校校長 | 哲学博士)
ファシリテーター:本橋 彩(UNIVERSITY of CREATIVITY フィールドディレクター)
パティシパンツ:清水 幹子さん、田中 和子さん、林 泰斗さん
「これからの経済は、“つながる” “ローカル” “分散” “コモンズ” “共有” にヒントがあると思う。」
「子どもたちには、哲学と脳科学を学んでほしい。そして、人々を濃厚につなげる学びの場を創りたい。」
「多様な価値観の中に身を置き、自分の価値観や枠組みを外して、様々な選択肢を常に考えながら、社会とつながる実践を繰り返すことが大切。」
星さんが考えるエコノミーにおけるCREATIVITY
CREATIVITY : 発想を実現すること
CREATIVITYなモノ : スローフード
CREATIVITYなヒト : 宇沢弘文
1つ目は、ITやEdTechのメッカであるシリコンバレーは、アイデアに溢れた人がたくさんいます。そこでよく言われているのが、アイデアが良くても実現実行しないと意味がないということです。カタチにすることがクリエイティビティだと思います。
そして2つ目は、いま強く感じているのですが、“つながり”をつくることや、枠組みから外れて逆行して考えることの大切さです。これまではファスト、グローバル、中央集権でしたが、これからはスロー、ローカル、分散が大切になると考えています。
最後の宇沢さんは“コモンズ(社会的共有資本)”を大切にし、数値化されていない価値を重要視して未来を描くことを説いた方で、これからますます大切になると考えています。
星さんが描く未来の学び(学びの場)
子どもたちに、哲学と脳科学を学んでほしいと思います。スタンフォードオンラインハイスクールでは哲学が唯一の必修科目になっています。哲学で物事の前提を考え続け、前提を変えて考えてみることを繰り返し、これから未来を創造する若者たちには、考える力を身につけてほしいと思っています。そして、いま脳科学の成果に基づいて、教育にブレイク・スルーがおきています。脳科学で人間の学びに関する思い込みや常識をただしましょう。学習効果が大幅に上がることもわかってきています。
人々を濃厚につなげる学びの場を創っていきたいです。オンライン教育は、いろいろな人や世界とつながることが実現できます。スタンフォードオンラインハイスクールでは、生徒の人数を絞り、小さい密度の高いコミュニティを大切にしており、オンライン教育の大規模化のスケーリングに逆行してきました。そのことで、濃厚な学びのグローバルコミュニティを作ることができ、いまの成功につながったと確信しています。
世界の教育の動向
いま、大きく4つの流れがあります。
① パーソナライゼーション
テクノロジーによって教育のパーソナライズ化が進んでいます。近代の横並びの教育システムは、能力や学習進度の違う生徒たちに、同じ教育を押し付けることで、公平性から逆に不公平性を生んできました。その状況を打開するため、テクノロジーで個人に適した学びを提供していこうとするトレンドが見られます。
② オンライン/Ed Tech
アメリカの大学生は3人に1人がオンライン授業を受け、6人に1人は完全にオンラインで学位を取得しています。オンライン教育の市場は世界の投資家が注目していて、中国、インド、アメリカでの投資がますます拡大しています。
③ 学習の分散化/ディストリビューティッド・ラーニング
学ぶ場は“学校”に集約されていたものが、オンライン教育の機会が拡大して、個々の学ぶニーズに合わせて違う場所を選択できる時代になりつつあり、学校の社会的役割が変わってきています。
④ 生涯教育/リカレント教育
ここは、エコノミーに最も関連してくる動きです。テクノロジーの進化で、日々仕事が大きく変容していくいま、常に学び続けながら新いスキルを学び直す必要があります。より専門的な知識が要求される社会で、企業が社員の教育や学位取得をサポートする動きが生まれています。
いま、学校のあり方、一人一人の学ぶ姿勢のあり方が問われています。教育の二極化も、コロナ禍で加速しています。オンライン教育は解決策そのものではなく、問題を解決するツールでしかありません。その強力なツールを使って、どのような解決法を創造するかが現在の課題です。
創造的学びとは?
学ぶ・知るということは、そこで終わってしまい、創造性の可能性を狭めている危険性もあります。学ぶことで非創造的になりやすい危険性があります。常に前提や枠組みを問い直し、その前提や枠組みを変えていくことを繰り返す。常識を疑い、本当にその選択肢しかないのか?疑い、考え続けることがとても大切です。大人も子供も、間違えたり、分からないときに、脳が活性化していることがわかっています。失敗体験をしていいんだ、間違えから学べるんだと、確信することで学習効果が上がることもわかっています。クラス分けやラベル分けなどが、その人をワクにはめてステレオタイプをつくってしまい、その人の成長や可能性を阻むのは危険です。枠を疑い、とらわれないことがなによりも大切です。
親は子供に対して、学び育てることをサポートする、「学育」することが大切です。親自身が、どう自分自身を変えて子供と接していくか考えながら、親自身もトライし続けることが大切です。
学びは社会的な活動です。社会や人とつながり、はじめて学ぶことができます。Withコロナの時代だからこそ人々はより一層“つながり”を求め、“つながり”が大切な資本となり、新たな価値を生み出していくと思います。オンラインハイスクールを始めて、15年目に入るのですが、濃厚な学びの場を創るために、合宿、対面イベント、リージョン・ミートアップなど、リアルに会う機会を積極的につくっています。生徒が学んでいることは、ほとんどが教材外、教室外なんです。オンラインは廊下がないので、廊下のような、クラス外のインスタントのコミュニティをどのように創るか考えています。“つながり”が学びの根源なので、とにかくまずは生徒と繋がれることを考えています。
創造的学びをどのように社会につなげていくのか?その先にニューエコノミーが見えてくる
いま、生涯学習の重要性が高まってきています。学び自体が、大きなビジネスになっています。世界が日々変化し、求められるスキルが日々変化しています。スキルのマイクロ化、学位のマイクロ化をどうマネタイズしていくのか?が注目されています。学びは本質的に社会的なものであり、人々にとって、教育にとって、“つながり”の価値が重要になる中でそれをどのようなカタチにするのか?に、ニューエコノミーのヒントがあるのではないでしょうか。
社会の多様な価値観や思考に触れることが大切です。創造性は、ダイバシティの中から生まれてくるのです。学校や組織の中にダイバシティを創り、インクルードしていくことが大切です。多様な価値観の中で、自分の枠組みや価値観のを超越する訓練をしていくことが大切です。
自分の考え方も常に変わるということを認識しながら、これからは柔軟に、深く考え、多様なやり方を試し、創り、実践(体感)していくことがより大切になるでしょう。これまでのように多くの問題を早く解くよりも、少ない問題を色々なやり方を試してくほうがこれからはますます大切になるでしょう。