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New Economy

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2020.10.28 (WED)
10:00 @
【レポート】『創造性で切り拓くミライ 共催:一般社団法人 未来思考学会』 創造から倫理の時代へ

私たちを人間たらしめているのは創造性に他ならない。
創造性はテクノロジーの進化をもたらし、またテクノロジーの進化は創造性をより拡張させることだろう。
私たちは今後創造性で世界をどのように切り拓いていくのか。語るのはアンドロイド研究や数々の創造的な研究を生み出してきた大阪大学の石黒浩教授と世界中の創造のタネが花開くのを見守ってきたStanford大学オンライン高校校長星友啓氏である。二人はともに「倫理」を重要なタームとして挙げた。


#生き方  #創造性資本主義  #創造性 


新型コロナで世界は大きく揺れている。UOCのNEW ECONOMY Fieldではより良い経済、世界を私たちはこれからどう創造していくのかを考えていく。


エコノミーにおけるクリエイティビティとは何か。価値創造はその一つだろう。2500年前にリディア王が貨幣に刻印することで信用を可視化して莫大(ばくだい)な財産と権力を手にした。株式会社やインターネットなども価値を創造したことによるもの。アダム・スミスは分業の価値を唱え、近江商人は「三方良し」を説いた。彼らの思想は現在の「働く」という潜在意識を大きく形作っている。


このようにさまざまな分野、時代、ヒトをつなげて経済における創造性を探る。経済はヒトとヒト、ヒトと企業、さまざまなものをつないでいく活動である。新型コロナ以降新たに大きく変わる社会、組織、人々とを私達はつなぎ直していく。そのキーワードはRe Thinking Re Connecting。その先に見えるニューエコノミーを探したい。


とはいえ出発点はエコノミーにとらわれず、自由な観点から創造性と未来を二人に語っていただいた。



UoCのMANDALAからの配信



創造性に求められる責任

 

「未来というのは予測するものではなくて、自分たちで作っていくもの」とする未来思考学会の石黒浩は今や創造性には責任が伴うと語る。

 

石黒「無責任な創造性と責任のある創造性というのが最近気になっている。それは何かというと、命の様相が少し変わってきてるんですよね」

 

石黒が学生だった30年くらい前は脳と遺伝子はいじってはいけないという教えだったらしい。ところが仕組みが分かり、自分たちにメリットがありそうだと思うと人類は今や簡単に手を出してしまった。

 

石黒「遺伝子に手を出すというのは、命をデザインするのと同じなんです。ロボットがAIをどんどん取り入れて平均的な人間よりも賢くなるのも似たようなところがあって。

 

何が言いたいかというと、今までは生き残るためだけに「どんなことをしても生き残りましょう」要するに生物に生き残る以外の目的はなく「生き残るためだったら何してもいい」っていうのが生物の進化の原理だったと思うんですね。だから、何でもやったんです。矛盾することもやった。「社会を大事にしましょう」「でも個人を大事にしましょう」矛盾の最たるものは、みんなが平等だったら進化しないこと。平等な社会から飛び抜けた人間を作らないと進化しないというのは進化の原理で当たり前なのに。だから「生き残るためには何やってもいい」という自然の摂理の旗の下に、人間という矛盾が許されていたところあるんですけれども。

 

それがどうも、自分の未来が自分でデザインできちゃうとか、命がデザインできちゃうとなると、どういうふうに生きていくんですかとか、どういう社会にするんですか、という問題に対し、「単に生き残ればいいんだから、これは自然の問題だから私関係ありません。やりたい放題やります。ありとあらゆる方向にクリエイティブにいって、あとは自然のフィルターに任せていいとこだけ残してもらったらいいんです。私の問題じゃないです」というのがもう許されないと。

 

地球温暖化というのも同じなんですよね。地球さえも人間がコントロールしだしていると思ったほうがいいのかもしれない。人間の命だってコントロールできるようになってきているわけで。コントロールできるようになったら、どうデザインするかは人間側の責任であって、自然に任せる問題じゃなくなってくる。これをどうするんだろうと。今までみんな誰も考えなかったものすごく大きな責任がここにきて人間に降りかかってきている、と。だから無責任な創造性っていうのは有り得ないっていうか、創造性は持っていい、持たないといけないんですけど、創造性にフィルタリングをかけないといけない可能性とか、創造性を持っていい人間と持っちゃいけない人間に分けるとか。われわれが未来を設計するっていうことは、自分たちを制約することでもあるんですよね」

 

創造性には責任がつきまとう時代となったと語る石黒の相手はStanfordオンラインハイスクールを校長として全米の大学進学校1位にまで押し上げ世界から注目されている星友啓。哲学者でもある星は普段から「今後どんなスキルが求められるか」と問われると「エシックス、倫理学だ」と答えているという。

 


パティシパンツを交えての議論

 


今や技術よりも倫理を創造すべき

 

「僕のとこの学校だと高校で2年生の哲学の必修は科学哲学史で、最初はアリストテレスあたりから始まるんですけれども、やはり今おっしゃったような命とかDNAいじったり、脳をいじったりってことはもちろんできなかったわけで。科学の発展と倫理の距離が今より遠かったと思うんですよね」

 

星は今や科学と倫理の距離がイコールといってもよいほど近づいているという。

 

「クリエイティビティって何かっていったときにまさに価値を作り出すんだけども、その価値に関する価値みたいなのもある。責任や倫理などについてどうしていったらいいのかが今後本当に重要な問題」

 

石黒はこの話を受け、倫理の創造性について提起をする。技術さえ進めば何をやってもいいという時代があったことを踏まえ

 

石黒「AI出てきてだいぶ変わったかもしれないと思ったのは、僕ら、大学ではAIの難しいツールがいくらあっても、ちゃんと中身を全部理解して自分でプログラム書ける人間を作ってきたんです。ここにいる人たちはみんなそれができると思うんですけどね。でも、今ほとんどブラックボックスでやってるんですよ。かなりの高いレベルの大学の学生までもが簡単に手を出せないぐらいの複雑なアルゴリズムになっていて、みんな盲目的にブラックボックスで技術を使うようになっている。だから、技術を新しく生み出すところの創造性というのはものすごく限られた人間しかもうできないかもしれない。じゃ他の人は何に創造性を使うべきかというと、技術はAIとかロボットに任せればいい。もっと言うと、ロボットがロボット作って、AIがAI作って、技術的にはそういうクローズドループでどんどん進歩する可能性さえも出てきていると。

 

でも倫理に対する創造性があまりにもなさすぎて。人間、生きればいいんだというところから思考停止。経済発展させれば、技術を発展させればいいんだというので思考停止をして。それで技術が機械に置き換えられてくると、次何するのかと困っているのが今の状態な気がするんです」

 

今や技術よりも倫理自体を創造する時代であると石黒は言う。対して星はAIが間違う可能性を挙げる。たとえば裁判が行っているようなことをブラックボックスであるAIがとって変わって大丈夫なのかと星は言う。

 

「今までの(裁判だとか)そういった可視化してみんなでとりあえず合理的に判断できたよ、みたいなステップができなくなっちゃっている。その中でどういうふうに倫理的なフレームワークを作るかっていうのは、本当に私も今倫理学者だ何だとかいって哲学の分野でやっていますけども、哲学者の中でも発想が乏しいんじゃないかなと私も思いますね」

 

新たな倫理が求められる時代において石黒はモデルをたくさん作れないかと提言する。

 


社会を多重化し多様化させる必要性

 

石黒「倫理のレベルでいろんなモデルを作ってみて、いろんな街でそれぞれ試してみるみたいなことがもっともっと起こらないといけないと思うんですよね。日本という一つの大きな枠の中で常に1つの倫理を共有するっていうのはもう無理なんじゃないかと思うんですよ。それやっている限り全然倫理の点でクリエイティブになれない。倫理の点でクリエイティブになるんだったら、もっと社会を細かく分けるとか。インターネットで世界は多重化してますし、実世界ももっとアバター使って多重化をしてですね、多重化された世界でいろんな倫理のモデルを試してみて、その内いいやつを残すみたいなことをしないといけない。そこら辺が大事な気がしているんですよね。

これからの、僕が作りたい世界というのは、倫理を分散して、それぞれに独立させた世界。大学教授の私としての倫理もあれば、例えば街でチラシを配る私の倫理もある。そこを完全に切り離せるような世界を作らないと倫理の創造性を保障できない。「大学教授の私」が全ての場面につきまとうと人生の生き方が狭くなるし、何ていうか、独立した倫理問題を考えられない。

 

だから、いかに人生を多重化するか。本当に多重化するっていうことをそろそろしないと社会のデザインができない。未来のデザインができない」

 

社会の多重化、多様化の提言を受けて、星は自身が見てきた教育現場を例に挙げる。そこには分散化があり、多様性があるという。

 

「例えば『ほんとに好きで、ここに人生かけてます!』みたいなグループがなくても、それを卑下することはまったくない。むしろいろいろなグループでいろんなこと話したりするのが人間の持っている個としての多様性であって。いろんなコミュニティーを作ってそこに入れてあげるような機会をサポートできるんだったらして、そういうほうが生徒さんのセーフティネットにもなりますと。」

 

「ほんとの自分って何なんだ? みたいな見方ってあまりよくない」「分散化したコミュニティーで自分も分散化していっているような社会」が望ましいと星は続ける。

 

石黒も多様性の必要性を認める一方、「一般の人は多様性を理解しようがないのでは」と言う。

 

石黒「そもそも人間の進化のメカニズムから考えたらおかしいわけですよ。全員多様だったら進化しない。安定志向の8割と多様性を求める2割ぐらいのバランスをしないと社会が安定しないですし。理想は、ものすごく多様なんだけれども安定していて、誰でもいつでも突き抜けられるような社会であって、しかも8割の多様性の価値を理解できない人も心地よく過ごせると。こういう社会ってどう作ればいいのかって、まだ答えはないんですけど。(略)」


石黒浩(一般社団法人 未来思考学会代表理事)

 


多様性には体験が必要

 

星は多様性の難しさを体験という観点から挙げる。

 

「リチャード・ローティというスタンフォードにいた哲学の先生ですけども、多様性とか立場の違いを頭の中で理論的に考えているだけでは駄目であると。一緒に体験を通してじゃないと実際に重要であるような多様性の価値観は身につかないみたいなことを言ったんですね。

 

例えば今自分が持っている価値観を「これ、一つの価値観だな」と感じるために全然違う価値観の人たちに会わなきゃいけないんだとしたら、裕福な人たちじゃないとそういう体験自体も求められない」

 

石黒はもしも10個世界があるような社会の多重化が成立したとしても8割の人間は安定志向であり、色々な世界を体験しようとしないだろうという。だがヒントがここにあるのでは?と。

 

石黒「研究室でもそうですよね。僕はいい加減なことやり過ぎるので、周りのやつらは一生懸命安定志向で足引っ張ってくれてちょうどいいんですけど。足引っ張ってくれてじゃないですね(笑)。要するに組織を安定化させてくれるんですね。ここがすごく難しいんですよね。何か答えがあるはずだと思っているんです。

 

ちょっとフェーズが変わらないといけない。進化の話をしたんですけど、今の私達は遺伝子の仕組みで進化していないので。遺伝子の仕組みっていうのは良いかどうかわかんないものをいっぱい作って、良いやつだけ残るので、8割と2割みたいな話になっちゃうんですけれども。今、テクノロジーで進化するというか、自分たちで設計するんだったら、全体をぼんっと上に上げられる可能性さえあると思うんですね。

 

でも、そうやって上げるためにはどっかで探索をしないといけないんですよ。どういう未来がいいか、いろいろ試していかないといけない。未来なんていうのは、いろんな可能性を試す以外に作る方法はないので。まだ答えがないんですけど」

 

石黒は安定8割と創造2割の2割側だけ進化する遺伝子的な進化から、今後は8割と2割がぐるぐる入れ替わる全体的な進化の方法はないかと模索する。一方、星は8割が安定化をもたらすなら創造性とは周囲が作るものではないかと言う。

 


創造性を生むのは創造的でない人々


「枠組みであるとか、創造性の反対にあるものがないと創造性って成り立たないわけじゃないですか。創造ってやっぱり今まであった枠組みの中から、それを壊しながらとか、新しいものを作るという考え方じゃないですか、ざっくり言うとね。」

星友啓(哲学博士 | Stanfordオンライン高校校長)

 

石黒「創造性という言葉は外からその人を解釈したときに創造的なのであって。創造的でない人間が他にいるからその人が創造的だと理解ができるもの。創造的な本人はたぶん何も考えてないというか、世の中のことを全部無視して好き勝手やっている可能性さえあると思うんですよね。このサイクルをどうやって社会全体の中にうまく組み込むか。例えば教育の中に組み込んで、一部の人間だけじゃなくて全員が創造的になるような仕組みが作れるか。これがもしできたら人間はもっと早く進化するような気がするし。

 

最初に言った、単なる経済合理性とか生き残りゲームを戦う時代は終わりつつあって、やっぱり大問題はほんとの未来を作らないといけないこと。まったく新しいフェーズの違う価値観を作らないといけないので、全員がやらないと駄目だと思うんです。何でかっていうと、われわれ人間社会として次、生きていかないといけないわけで。デザインするのは個人じゃなくて社会全体なわけですよね。だから、社会全体が同時にクリエイティブになって進化しないと、みんなが心地よい未来ってできそうにない」

 

私達は社会全体で進化できるのか。そのために具体的にはどうすればいいのかを二人は語る。

 


全員がクリエイティブになり、社会全体で進化する

 

「例えば社会とか進化論的な競争みたいな現場があって、この一つの個体が生き残って進化が続くっていうのは個人ベースの進化ですよね。そうじゃなくて、社会自体を複数化してその社会一個、一個、比べてみて、いいのがあったとしたら実際そっちのほうに社会的にかじ切ってみようよ、みたいな。そういうデシジョンメイキングの仕方みたいなのがすごく興味深いなっていうふうに思ってお話聞いていたんですけど」

 

石黒は社会全体で進歩する方法として多重化する社会を挙げたがそのために必要なのは政治活動ではなく教育ではないかと語る。

 

「日本で一番の問題は先生の給料が安すぎること」と語る石黒は医者や弁護士と教育者の給料を交換すればいいという。50年経てば医者や弁護士はただのオペレーターとなり、工学系はその道具を作る者、そして教育者が最も地位が高くなると。

 

石黒「僕らが技術によって一番大きく貢献したのは、ある意味でいうと技術者をものすごく減らしたということなんですよ。技術偏重の世界だったのが、特定の人間が技術作っていれば大体世の中回るようになったという。それはすごい危険だとか悪いとか言われるかもしれないですけど。これが医学とか法学にまで及ぶと、人間にとって最も重要なのは、未来社会を考えるとか、自分たちを教育するところにもっと本気のリソースを割かないといけないこと。

 

人間にしかできないことって何かって、よくクリエイティブなこととか芸術活動とかいう。一般の人が遊びでやる芸術活動なんて、たいていはコンピューターの方がいいんですよ。でも、人間の未来を決めるというか、人間がどう生きていくかを決めるのは、やっぱり人間しかできない。そこまでコンピューターに任せるところまでまだ踏み込めないんじゃないかなと思うんですよね。

 

人間わからないことが山盛りあるわけで。わかったことをどんどん技術に置き換えていって、残りのリソースをすべてまだわからない人間の問題を考えながら、人間の未来を生物原理じゃなくって自分たちでデザインするということに割いていかないといけないかなと。そうすると、やっぱり教育ってすごく重要。自分らが作ってきた技術は、教育を重視してもらって社会の構造を変えるために使われると思うと、悪くないなと思っているんですけどね」

 



[進行/UoCフィールドディレクター ]

本橋彩


[パティシパンツ]

Stanfordオンラインハイスクール 堀内野乃

国際基督教大学高等学校 ローゼンタール・エリ彩香、辻川凛

京都大学大学院教育学研究科 澁川幸加