2022.7.1

創造性ゼミ 2022

【連載】カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ (2022創造性ゼミ第6回)

2050年カーボンニュートラル宣言。脱炭素の挑戦をブレーキではなく成長のエネルギーに変えることでこの目標を達成できないか?というのが産業経済社会が抱える最大の課題です。

この課題に対して経済、テック、哲学、文化…さまざまな世界の第一線で活躍するチャレンジャーをゲストに迎え、その刺激を浴びながら議論と創発を行い、連携して複数のプロジェクトを立ち上げることを目指す「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」での講義と議論の模様を、毎週金曜追加更新の形で配信動画と参加者によるレポート記事としてお届けしていきます。


田村 裕俊

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皆さんこんにちは。『カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ 』ゼミの松尾です。

5月23日に行われた第6回のテーマは、「CO2吸収固定への企業の挑戦」。大量のCO2排出が避けられないとされている基幹産業でのCO2吸収への取り組みについて、大成建設技術センター社会基盤技術研究部の大脇英司さんと、日本製鉄スラグ事業・資源化推進部資源化企画室の木曽英滋さんにお話を伺いました。どちらの事例も大変刺激的な内容で、まさにこのゼミが目指す「脱炭素の挑戦をブレーキではなく成長のエネルギーに変える」を体現されている創造的な取り組みでした。


▲「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」も折り返しを迎える


まず、大成建設の大脇さんから「カーボンリサイクル・コンクリート」の開発について教えていただきました。

これまで意識したことがなかったですが、コンクリートは地球上で水に次いで利用量が多いと言われているそうです。世界のコンクリート年間生産量は約320億トン。大量に消費されているコンクリートでCO2を削減できれば「大きな排出量削減につながるのでは」と、期待が膨らみます。


▲「カーボンリサイクル・コンクリート」について解説する大成建設の大脇英司さん


コンクリートはその材料となるセメントの製造時に大量のCO2を排出します。セメントの年間生産量は約40億トンで、世界のCO2排出量の約8%をセメント製造が占めるといわれています。「それならセメントを使わないコンクリートを作ればよいではないか」(大脇さん)というところから開発がスタートしました。

注目したのは、「炭酸カルシウム」と「高炉スラグ」。工場の排気ガスなどから回収したCO2で製造する炭酸カルシウムと、製鉄時の副産物である高炉スラグ主体の結合材を材料に用いることで、コンクリート内部にCO2を固定する「カーボンリサイクル・コンクリート」が生まれました。廃棄物や副産物をうまく活用した結果、118~149%のCO2削減率を達成したといいます。新しい技術であるからこそ、法制度や基準・規格などの整備はこれからですが、既に舗装や建物の壁部材などでの実用化が進んでいます。

 

 

続いて、日本製鉄の木曽さんから「製鋼スラグの海域利用によるブルーカーボン生態系造成技術」の紹介がありました。CO2の排出を抑える製鉄技術の研究は進められていますが、一方で製鉄時に生まれる副産物「鉄鋼スラグ」がCO2を吸収する役割を担えないかというチャレンジです。


▲製鋼スラグによる藻場の再生について説明する日本製鉄の木曽英滋さん

「鉄鋼スラグ」は、高炉で鉄鉱石を溶融・還元する際に発生する「高炉スラグ」と、鉄を精錬する製鋼段階で発生する「製鋼スラグ」の二つに大きく分類されますが、前者がセメントに代わる材料として活用できるのは、先ほどの大脇さんの説明にあった通りです。後者は主に道路用の材料として使用されてきましたが、これを海藻藻場の再生に活用してCO2を吸収させようというのが木曽さんの取り組みです。

実は、海藻藻場が衰退する「磯焼け」が全国的な問題に拡大しています。ウニなどによる食害や河川水の流入による懸濁物質の増加が原因とされていますが、その他の原因の一つとして鉄等の栄養塩の不足が指摘されていました。「製鋼スラグ」を沿岸域の鉄分供給材として確立させることができれば、藻場の再生を通じて海藻類が吸収するCO2量を増やすことができるということです。

磯焼け対策技術からブルーカーボン生態系造成技術へ。まだUNEP(国連環境計画)レポートに海藻藻場は含まれていませんが、木曽さんは「近いうちに含まれる可能性が高い」と期待を寄せています。確実に藻場を造成するための技術的な課題は残りますが、「製鋼スラグ」を利用したブルーカーボン生態系の創出が実現するかもしれません。

 

その後、質疑応答に入りました。「取り組みをスケールしていく上での課題は?」「今後の展望は?」などの質問が出ました。

大脇さんからは「これまでお金をかけて処分していたものが資源となり、一気に値上がりして争奪戦になる」との指摘がありました。その意味でも、「業界にとらわれない『大きな連携』」が必要になってくるのでしょう。

木曽さんからは「自然相手なのが難しい。海藻が想定通りに生えてくるかはわからない」とのお話がありました。やがて大きな潮流となることを信じて、まずは足元での実績を積み重ねていくことになりそうです。

「その手があったか」と感じたのは、「回復した藻場の昆布を商品として売り出してみてはどうか」という意見です。これは、生活者にとってまだ馴染みの薄い技術を手の届く範囲の商品にまで落とし込み、手に取ってもらって、意識を変えてもらう、という点でとても可能性のあるアイデアだと感じました。


▲講演後のディスカッションではゼミ生から様々な質問や意見が出た


 

このゼミから生まれるプロジェクトも、そのような生活に近い部分で脱炭素に関われるものであるとよいなと、あらためて感じました。今回ご紹介いただいたような創造性のある取り組みを知り、広めていくことが大切で、それが様々なアイデアやシナジーを生み出すきっかけにつながるはずです。「脱炭素しながら経済成長」というかつてない難問に対する答えを一つでも見つけられるよう、残りのゼミも楽しみながら取り組みたいと思います。




Catalyst
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大脇 英司
大成建設 技術センター 社会基盤技術研究部 材工研究室

1988年大成建設(株)入社.以来,技術センターにてコンクリートの耐久性評価および新材料開発に従事.耐久性評価においては,放射性廃棄物処分施設における超長期の評価や,ミクロな視点での化学的変質とマクロな劣化現象との関連の解明に注力.新材料開発では,環境に配慮したコンクリートのほか,硫酸に侵食されないコンクリートなど自由な発想で開発.途中,1992-93年カナダNational Research Council客員研究員 博士(工学),技術士(総合技術監理部門,建設部門)

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木曽 英滋
日本製鉄株式会社 本社 スラグ事業・資源化推進部資源化企画室 主幹

平成6(1994)年に新日本製鐵株式会社(現、日本製鉄株式会社)入社。鋼製建材の開発業務、社内設備のエンジエアリング業務を経て2000年4月より鉄鋼スラグの新製品開発および市場定着に携わる。

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