2022.11.1

創造性ゼミ 2022

【創造性ゼミ2022を終えて】食にまつわる人の暮らし方

UNIVERSITY of CREATIVITYは、14の「創造性ゼミ2022」を開講しました。
それぞれのゼミが挑んだテーマは、創造性との関係を比較的容易に想像できるものもあれば、直感的には連想しにくいものまで幅広く、そこに集ったゼミ生たちの個性がお互いに刺激し合いながら、新たな価値が同時多発的に生まれる場となりました。
UoCプレスチームは、この学びの港を編み上げた各ゼミのプログラムディレクターにインタビューを行い、ゼミ生がどのような気付きを得ていたか、そしてどのような変化があったのか、深掘りを試みました。

#universityofcreativity  #UoC  #創造性ゼミ 2022  #創造性  #食 


都会の真ん中のビルでやるからこそ、地に足のついた人の話を聞く


「食べる / 作る」だけじゃない食のあり方

ー「食にまつわる人の暮らし方」をゼミのテーマに選んだ理由を教えてください。
 
私はTOKYO Campusのキッチンの責任者としてUoCにジョインしていて、「場を活性化するための食」を考えることを大切にしています。他の仕事では、フードデザイナーだったり、フードスタイリスト、フードディレクターと名乗ることが多いのんですが、食べ物だけではなく、そのまわりの空間全体や関係性をつくるという役割を担っています。
なので、このゼミを担当することになって、単純に食材や食物だけを中心に扱うのはちょっと違うかなと。また、食は身体性を伴うメディアとしての力が強いと感じているので、せっかくリアルに集まれるゼミだからこそ、食に関する多面的な要素を体感してもらえるように、幅広くフォーカスを当てやすい「暮らし」を取り上げようと思いました。
あと、食に関わる人に会って話を聞くことで、「こういう人もいるのか」とハッとしてほしい、新しい視点をもってほしいというのもありましたね。




 ー確かに、食に関する話題は「食べる人」と「作る人」の単線的な関係で終わってしまうことも多いですよね。少し踏み込んでも「なるべくオーガニックなものを使いましょう」というくらいで。
 
そうそう、それだとちょっと物足りないんです(笑)。オーガニックにしても慣行栽培(農薬や化学肥料を使用する従来型の栽培)にしても、みんな理由があってやっているわけですから。どっちが良い悪いじゃなくて、まず目の前の事象の背景や経緯を知ることも大切ですよね。
もともと私はワークショッパーという肩書きをもらうぐらいワークショップをやっていた時期があったのですが、その日だけゲストの生産者さんから話を聞いても「面白かったね」で終わってしまうこともあって。それがとてももったいないと思っていて。「生産者さん」という役割や情報は伝わるんだけど、個人と個人としては深く繋がりにくいというか。
私のゼミでは、ゲストのみなさんも含めて名前で呼び合うこともそうですが、学び合う当事者として一人一人がお互いに関心を向け合うことを大切にしたくて、その人自身の暮らし方や考え方を知った上で、食材のことも知るようにしています。





ー個人のライフストーリーの方が重要なんですね。対馬で猪鹿肉の食肉・加工品販売、普及活動をしている齋藤ももこさんがいらした回は、私も取材で立ち合わせていただきましたが、齋藤さんご自身の人生が現在の活動に反映されていることがよくわかりました。
 
それが見えてくると、「どこでイノシシの肉を買っても同じじゃん」ってなりにくいと思うんです。
 
このゼミには食べることが好きな人が応募してくれるだろうなと思っていましたが、それだけじゃなく自分の暮らしを見つめなおすきっかけになってほしくて。東京のど真ん中の高層ビルにいるとなかなか会えない人の話を聞いて、頭をガツンと殴られてほしい(笑)。ビルの中で情報だけ追っていても、頭でっかちになってしまうので。
 



紆余曲折を経て食に関わっているゲストたち

 
ー今回は3名のゲストが参加されましたが、どういった基準で選んだんでしょうか?
 
3人のバックグラウンドがバラバラであるということを大切にしました。最初に来ていただいた髙橋伸一さんは山形の真室川で代々農家を営んでいて、一度役所に就職したけど戻ってきて農家を継いだ方です。農業に携わることへの違和感はなく、農家の暮らしにまつわる全てのことを販売している方です。
先ほども名前がでた齋藤ももこさんは、獣医に憧れて大学の獣医学部に入学、紆余曲折を経て現在は対馬で野生動物と人々の暮らしの間に立って、鳥獣害対策だけでなく食肉としての利活用や教育にも関わっています。
三人目の大橋磨州さんは大学を卒業後、さらに東大大学院で研究の道に進んだのだけど、その途中でアルバイトしたアメ横の魚屋さんの活気とか、ある種演劇的な部分に惹かれてそのままご自身の生きる場所としてアメ横を選んで魚屋さんになったという方です。
 
ー本当にみなさんバラバラですね。
 
最初から「自分は食に関する仕事に就くぞ!」と考えていた人は、誰もいなかったです。磨州さんはアメ横の空気や場が好きだから、「別に食べ物に関係なくてもいいのかもしれない」ともおっしゃってました。ゼミ生の方が食に関心が高いくらいで(笑)。
 
でも、そうやっていろいろな立場の人の話を聞くことに価値があると思っていて。今回はお招きできなかったですが、例えば兼業農家でお米だけ作っている方や、農協や漁協といった所属団体の方針や規格に沿って、淡々と出荷をこなしている方々からの話も聞きたかったです。数や流通量でいえば、そういう人の方が多いでしょうし。そういう人にも会って、衝撃を受けてほしいですね。
 


どの魚を買っていいかわからない」から一歩踏み出す





ーゼミ生の意識は変わってきましたか?
 
まだ終わって時間がそんなに経ってないので、私自身まだその変化を十分に汲み取れてはいないんですけど、2~3時間かけて一人の話をゆっくり聞いて、質問もたっぷりできる環境はすごく刺激になったみたいです。やっぱり、どんな食材を買うにしても背景を想像して選ぶようになったとみんな言ってましたね。
 
ーどんなものにもストーリーがあるんだなと思うと、一個の野菜や魚にしたって情報量がものすごく多いことに気付きますもんね。
 
そうなんです。選択肢がグッと増えますよね。最近だとスーパーでも鹿肉やジビエが買えますけど、よく知らない食材はなかなか手に取れないじゃないですか。一度でも話を聞いて触れておけば、想像もできるようになりますから。
実際に話を聞いてみれば、意外と身近なものなんですよ。誰しも畑は見たことがあるし、魚屋さんにも行ったことがあるけど、その先を想像するのはなかなか難しい。どんな生活をしているのかとか、四季のルーティーンはどうなっているのかとか、話を聞いて初めて実感できますよね。
 
あと、ゼミ生のみんなは日々の仕事に追われる中で、食を通して自分の暮らしにグッと向き合うことでリフレッシュできていたみたいです。ゼミが終わった後も、頭の中でグルグル考えている人が多くて、その余韻も楽しんでくれていたそうで。いつもは月1回のペースでやっていたんですけど、最後の回はスケジュールの都合で1週間しか空けないで開催したんですね。そしたらみんなから「早い!」と(笑)。自分で考えるのも楽しいし、周りの人にアウトプットして話し合うのも楽しいから、もうちょっと待ってと言われちゃいました。
 
ー食事は毎日するものですが、当たり前すぎておざなりになることも多いですし、こういったゼミはいいきっかけになりますね。
 
ゼミ生の一人が「魚は大好きだけど、どう買ったらいいかわからない」と言っていて。スーパーに並んでいるけど、どれが旬か、どれが状態がいいのかわからないと。その話を聞いて思ったのは、魚を選ぶっていうことも、正解がある問題のように見えるのかもしれないということですね。よりよい選択をしたい。けど、その判断スキルが足りない気がして悩んじゃうというか。
ー魚に旬があったり、良し悪しがあることは情報として知っているけど、選ぶことはできないという。
 
そうそう、「正しい選択」や「正解」があるはず。という気持ちに縛られちゃうというか。ちなみに、実はハズレを食べることも正解ですよ(笑)。そうやってプロットしていくと、次に出会うもののポジションがよくわかるし。自分で失敗するとプロの凄さがわかることもありますしね。今回のゼミで、今度から魚屋さんに行って「どれがいいですか?」と聞いてもいいんだ。と思ってもらえたかもしれないし、もしかすると商品棚に並ぶ魚を自分で選ぶことと、店員さんとやりとりしながら買うことの意味合いの違いにも想像が及ぶようになったんじゃないかな。こういった想像力や試行錯誤は、都会の真ん中のビルにあるUoCの「創造性」にとってすごく重要だと思います。
 

取材・文:張江浩司


小枝指来実がプログラムディレクターを務めたゼミはこちら→ 食にまつわる人の暮らし方