2021.12.14

Human Creativity

ART NOT ART vol.1 青木彬

アート界の気鋭のキュレーターが選ぶこれからの「社会創造」のヒントとなる人間の創造物を3点とその選定理由とは?連載の第一回は、インディペンデント・キュレーター/一般社団法人藝と代表の青木彬さんです。


#【連載】ART NOT ART 

「社会創造」という一言は、特定のイメージを定めるには広い射程を持っている。だからこそ私たちにとっての「社会」や「創造」とは何かを深く問われるフレーズでもあった。

キュレーターの役割の大きなものに、展覧会をはじめとした様々な手法で「アート(≒創造力)を社会化する」というものがあるだろう。筆者はこうした役割を担いながらも、その創造力はアーティストだけが有するものだとは思っていない。筆者が考える創造力とは、言い換えれば「切実な思いを共感によって広げ、それを当事者たちにとってどうしようもなくそれでしかいられない形に具現化すること」と捉えている。


そこで今回は、特に「共感」という点にも留意し、誰か一人の思いから始まったとしても、決して一人では完成しないもの、または協働を生み出すプロセスが重視されているものに目を向けてみた。紹介する事例から、誰のどんな思いが共感を呼び、どのような協働が生まれたのか、そんなことを想像してみてほしいと思う。



ころがろう書店



建築家の佐藤研吾は、福島第一原子力発電所事故が及ぼした土壌汚染を調査している知人をきっかけに福島県安達郡大玉村と出会い、その後は地域おこし協力隊として同地に移住し、任期を終えた現在もなお福島県を拠点に活動を行っている。そんな佐藤が自宅の一部を活用して開いた古本屋が《ころがろう書店》である。「ころがろう」という名称は、佐藤自身が様々な場所を移動してきたように、様々な出来事がゴロゴロと転がっていくという意味が込められている。それは絶え間ない変化を予感させると同時に、どこか自然の摂理に任せたような気の抜けた軽やかさが漂っている。佐藤の建築は強固な設計図によってではなく、制作の現場に居合わせることで、常に計画を更新していく柔軟性がある、人々を巻き込む余白が生まれている。



大見新村プロジェクト


大見新村プロジェクト/ ニューまつり(2020) / 2020 / 撮影:Maharu Maeno


約50年前に無住集落となった村を蘇らせようと、様々な人々が集まり自分たちの活動拠点をセルフビルドしたり、農作や創作活動を行っている。村の新しい行事として開催される「ニューまつり」では、鹿をはじめとする山の生き物をモチーフにした即興的なパフォーマンスをするなど毎年ユニークなイベントを開催している。一見すると村の復興という大きな目標に向かっているコミューンのようにも見えるが、このプロジェクトの特徴はプロジェクトに関わるほとんどのメンバーが普段は都市生活者という点だろう。都市と山村を行き交うメンバー、絶えず変化する自然環境という2つの流動的な条件によって、即興性と遊び心を持った個々人の「やってみたい」という意思が離合集散するのがこの「大見新村」である。そこには都市生活者と農村の関係をリアルな現代社会の状況から軽やかに考えるヒントが隠されているのではないだろうか。



加藤山/将軍池


所蔵:日本精神医学資料館


これは東京都立松沢病院が大正時代に作業療法の一貫として行った造山の風景である。

治療薬もまだなく、作業療法も現在のようには確立していなかった時代、庭師の協力を仰ぎながら、医師と患者らが土を掘って池を作り、掘り返した土で山を作ったのだ。

名前の由来はこのプロジェクト(と呼ぶことが正しいかはわからないが)を主導した加藤普佐次郎博士である。加藤博士は掘った土を運ぶ道具であるモッコを担ぐ姿を揶揄し、陰でドクトルモッコ(土方医師)と呼ばれていたともいう。一方の将軍池の由来は、自分を将軍だと名乗っていた名物入院患者の葦原金次郎から名前が付けられた。完成から100年近くが経つ現在の山や池を見れば、優雅な公園の一角に見えるかもしれない。

これは精神病の治療方法も限られる中で心身の健康を願う切実さによって、どうしようもなく手が動いてしまった結果なのだと思う。今から見ればアートプロジェクトでもあるようにも見えるが、当時は決してそのような価値観で取り組まれたわけでもないだろう。「アート×福祉」のような言葉も目にする昨今、本当にその両者を繋ぐことができる強度のある創造力とはどんなものなのかを考えさせられる一枚である。

Catalyst
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青木彬
インディペンデント・キュレーター/一般社団法人藝と代表

1989年東京都生まれ。首都大学東京インダストリアルアートコース卒業。アートを「よりよく生きるための術」と捉え、アーティストや企業、自治体と協同して様々なアートプロジェクトを企画している。これまでの主な企画に、まちを学びの場に見立てる「ファンタジア!ファンタジア!─生き方がかたちになったまち─」ディレクター(2018〜)。都市と農村を繋ぐ文化交流プロジェクト「野ざらし」共同ディレクター(2020〜)。社会的養護下にある子供たちとアーティストを繋ぐ「dear Me」プロジェクト企画・制作(2018~)などがある。著書に『素が出るワークショップ』(2020,学芸出版)。

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