2021.12.17

Sustainability

【レポート】ゼミ第一期「SUSTAINABLE CREATIVITY」実践編〜小さな創造から大きな社会変革を目指す

コロナ禍によって改めて気づかされた、現代社会がそもそも持続可能ではなかったという事実。
グレタ・トゥーンベリも語っていたように、国連が定めたSDGsをはじめ、ぼくらがフォーカスするべき課題や目標はすでに見えている。しかし、「正しさ」だけでは人は動かない。そこに、創造性によっていかにワクワクや楽しさを注入し、多くの人々を巻き込み、社会を変えて行けるかが問われている。

近藤 ヒデノリ

#サステナビリティ  #関係性のデザイン  #SDGs  #SUSTAINABLECREATIVITY  #CIRCULARECONOMY 



「3.5%の人々の意識が変われば、社会は大きく変わる」というハーヴァード大学の政治学者エリカ・チェノウェスらの研究*1にもあるように、ぼくらは持続可能な社会をつくるための創造性を「サステナブルクリエイティビティ」と名づけ、本気で取り組む越領域の参加者によるリサーチ・創発・共創を通じて多様な小さな創造を生み出し、大きな社会変革を目指す「実践型ゼミ」を目指した。


フォーカスイシュー




第一期ゼミでフォーカスしたイシューは、上記SDGsの5つの目標。中でもUoCのある場であり、世界人口の半数が暮らす場であり、地球環境に多大な影響をもたらしている「都市とコミュニティ」をどう持続可能に変換していくのか。また、広告会社にある研究実験機関として、関係の深い多くの大企業の「つくる責任 つかう責任」を重点に置き、「気候変動に具体的な対策を」生み出すべく、産・官・学の垣根を越えた「パートナーシップで目標を達成」していくことを大切にした。具体的に掲げたのは以下のような問いだ。

・持続可能ではない価値観・習慣・ライフスタイル・ヒーロー・アイコンをどうリデザインしていくか?
・気候危機を自分ごと化する人を増やすには?脱プラをもっと進めるには?
・フードロスを解消するには?植物性肉を魅力的にするには?
・都市と地域の関係性と循環モデルをつくるには?
・廃材・端材から高付加価値プロダクトや作品を創るには?


越領域の参加者による創発・共創


第一期の参加者は、19歳の大学生から49歳の教員まで多様な職種の20名。創造性によって持続可能な社会をつくることを目指して、アート、デザイン、エンジニアリング、サイエンス、ビジネス等あらゆる垣根を越え、同じ目標を目指す仲間として、対話・協働、創発・共創を通じて創造を生み出して行くことを目指した。





地球視点でファクトを知り、持続可能な社会を創造する


ゼミの前半では、現在の地球環境のファクトと潮流を知り、後半でグループに別れてそれに対する具体的な実践アイデアを考えた。知るだけではなく、具体的なアクションを。一時的な認知ではなく、継続的な行動変容を。毎週のゼミだけでなく、合間の日々もSlackでのリサーチや分科会を行うなど高い熱量が続いたのは、様々な専門家を通じてファクトを知り、同じ課題に挑む仲間との出会いと創発によって火がついたと言えるだろう。以下、全10回のシラバスを挙げてみる。
 
第1回(11/24) オリエンテーション 
持続可能な社会をつくる創造性の前提|100 CREATIVE SEEDS|イシュー&プロジェクト

第2回(12/1)  ファクトを知る①
脱炭素社会|気候危機の現在と僕らがすべきこと|ゲスト:江守正多(国立環境研究所副センター長)

第3回(12/8)  ファクトを深く知る②
「DRAW DOWNー地球温暖化を逆転させる100の方法」 *3
ゲスト:鮎川詢裕子(「DRAW DOWN」日本版代表)

第4回(12/15) 方法論を知る①
人間中心から、生命中心の創造へ|パーマカルチャーの原則と関係性のデザイン

第5回(12/22) )  潮流を知る②ライフスタイル
世界のサステナブルプロダクト・ファッション・ライフスタイル ゲスト:熱田千鶴(「FRaU」編集長)

第6回(1/12)  国の施策を知る「2050年 カーボンニュートラル」
ゲスト:梶川文博(経産省環境経済室) オブザーバー:江守正多(国立環境研究所)

第7回(1/19)  グループワーク
チームごとの現状構想発表・クリエイティブディレクション。

第8回(1/26)  方法論を知る②−1 
「進化思考」ワークショップ 「適応」と「変異」 ゲスト:太刀川英輔(NOSIGNER)

第9回(2/2)  方法論を知る②−2 
「進化思考」ワークショップ プロジェクトをブラッシュアップ ゲスト:太刀川英輔(NOSIGNER)

第10回(2/9) 各チーム構想発表会(一部ゲストもオンライン参加)
2月中旬 全領域合同イベント


気候危機の現在と温暖化を逆転させる方法


第1回での全体テーマと目指すゴールを解説したオリエンテーションを経て、第2回ではゲストに国立環境研究所の副センター長の江守正多氏を迎え、気候危機の現在と僕らがすべきこと」をテーマでの講義とディスカッションを行った。
 
ここで「気候変動」ではなく、「気候危機」と書いているのには理由がある。それは地球温暖化が、長期的な地球の気候変動によるものではなく、77億人に急増した人類とその経済活動の影響による「人災」であるということだ。異常気象や生態系の破壊、飢餓、水不足など様々なリスクをもたらす気候危機に対し、2015年に制定されたパリ協定で「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より十分低く保つとともに、1.5度に抑える努力を追求する」目標が掲げられた。日本でも2020年に管首相が「脱炭素時代」を宣言したところだ。
 
江守は、一足先に気候危機対策に国を挙げて動き出しているヨーロッパに比べ、日本では人々の「負担意識」がその障害になっているという。環境問題には薄々気づきつつも、負担意識が足かせとなって自分ごと化が進まず、個人も企業も動きが鈍いというのだ。そのためには「本質的な関心を持つ人」を増やしてシステムに大転換を起こすことが必要であるという。ここでも先に触れた「3.5%」が鍵となる。そして、科学、倫理、制度、経済、技術など複数の観点から、常識に変化を起こしていく創造性が必要だという。



第3回では、こうした気候危機に対し、どの分野にフォーカスして何から始めることが効果的なのか?を深掘りすべく、書籍「DRAW DOWNー地球温暖化を逆転させる100の方法」 日本版を出版したばかりの鮎川詢裕子氏を迎えてワークショップを開催。多数の科学者と編集者がまとめた解決策ランキングを見ると、1位の「冷却材のマネジメント」、2位の「陸上風力発電」に続き、3位に「食料廃棄の削減」 4位に「菜食中心の食生活」が入っている。

鮎川は大事なのは、こうした調査結果をもとに、それぞれの関心と得意領域に応じて実際にアクションを起こしていくことであるという。ゼミでは、この回をきっかけに、個々に自身の関心をもった分野からリサーチを進めて次回で発表。そして、目標の近い者同士で4つのチームを結成し、更なるリサーチと多くの人を巻き込むワクワクする解決策の構想に向け、本格的に動き始めた。




人間中心主義から、生命中心主義へー新しい関係性のデザイン


第4回では「人間中心主義から、生命中心主義へ」というテーマのもと、創造のあり方そのものを大転換する時代であることを前提に、その創造の方法論として自然の摂理を元にしたパーマカルチャーデザイン10の原則をベースに「関係性のデザイン」を紹介した。

目に見える資源だけでなく、見えない資源を含む多様な資源の観察から、いかにカオスにしておくことなく、それらをつなぎ、循環を生み出すか。それを多くの人に知らせ、継続させていくためのコミュニケーションやブランディングの方法論についても解説。すでに各グループで立ち上がりつつあったプロジェクトに具体的な輪郭と方向性をインプットした。



第5回では、雑誌「FRaU」編集長である熱田千鶴さんを招き、2年間、計6冊の同誌SDGs特集を編むなかで見えてきた「世界のサステナブルプロダクト・ファッション・ライフスタイル」潮流を紹介いただいた。詳細は割愛させていただくが、当初はSDGsに早くから取り組んできた欧米に見習う形で進めていた編集が、後半からはそうしたSDGsの根本は元々日本人がもっていた「もったいない」精神や里山の育成、精進料理をはじめ企業や各地での取り組みなど、日本人には今後サステナブルな取り組みや創造をリードしていく大きな可能性があるということを再確認。

後半では、各チームからの4つのプロジェクトの中間発表に対して、熱田氏と筆者が方向性や参考事例を交えてディレクション。この後、冬期休暇を挟むも各チームでのリサーチやzoom分科会など精力的な活動が続いた。


産官学の境界を越え、持続可能な社会へ進化させていく


年明けの第6回では、経産省環境経済室の梶川文博氏を招き、昨年秋の管首相の「脱炭素宣言」を受けて梶川氏らが作成した「2050年のカーボンニュートラルに向けて」を元に、産業界を中心とした経産省の取り組みとその未来像について網羅的に解説頂いた。こうした国家施策の視点からも、産業界の動きをより加速させ、より多くの生活者の意識改革を起こしていくための創造性の重要性が浮かび上がったほか、オブザーバー参加頂いた江守さんも交えて構想中のプロジェクトへの意見を頂いたことも大きなヒントになった。なにより大きかったのは、行政の当事者との対話を通じて、産官学という境界を越えて持続可能な社会を創造していく「仲間」として、それぞれの役割と方向性をあらためて考える機会となったことだと思う。


第8回、第9回では、太刀川英輔氏(デザイナー・進化思考家)を迎え、発売準備中の書籍「進化思考」*を元に、生命の進化の歴史と創造の進化に共通する「適応」と「変異」のパターンを解説いただいた。太刀川氏が生態学を元に抽出した「適応」の「解剖」「形態」「生態」「予測」という4つの視座は、先のパーマカルチャーデザインやマーケティング、ポジションマップ、未来予測や生態系まで含んだ方法論として非常に示唆に富むものだった。同じく生命の進化の歴史を元にした「変異」の方法も、様々なデザイン、クリエイティビティに共通する方法論として各チームの構想のブラッシュアップを行い、最終週のプロジェクト発表を迎えた。




第一期ゼミから生まれたプロジェクト


こうして10回のゼミを通して、フォーカスイシューに向けて、4つのプロジェクトが立ち上がった。個々のプロジェクト詳細は別の機会に譲るとして、4月中旬のプレスリリースを目前に控えた、生活文化創造を推進するオープンプラットフォーム「Tokyo Urban Farming」、創造性によるサーキュラーエコノミー推進プラットフォーム「Circular Creativity」、「世界を変える(肉好きのための)一週間のフルコース」、3つのプロジェクト概要を紹介する。


①  Tokyo Urban Farming
都市における農的な生活文化創造オープンプラットフォーム


脱炭素時代に、都市の遊休地やビルの屋上・家庭菜園などを活用して農的な活動を行うアーバンファーミングという新たな生活文化の創造を目指し、企業・団体・市民が協働してさまざまな取り組みや情報発信を行う生活文化創造オープンプラットフォーム。JR東日本 東京感動線、プランティオ、プロトリーフの参画が決定し、4月13日にプレスリリースとウェブサイトを公開。UoCでのキックオフセッションほか、JR東日本の山手線駅における小規模農園・コンポストの研究、プロトリーフ社・カゴメ社との協働でのJR東日本高輪ゲートウェイ駅におけるトマト苗を1000株無料配布したほか、2021年11月に渋谷スクランブルスクエアで開催された「2nd Annicersary」にて、Micro Farm、コンポストなどの展示やトマト苗の配布やスムージー体験などを展開した。




②CIRCULAR CREATIVITY Lab.
廃材と創造性をつなぎ、サーキュラーエコノミーを推進するプラットフォーム


UoCでも登壇頂いた竹村真一氏(文化人類学者)の「ゴミとはデザインの失敗である」という言葉をヒントに、「創造性によってゴミという概念をなくし、循環型社会をつくる」ことを目的に、[廃棄物]と[創造性]をつなぎ、サーキュラーエコノミーを推進していくオープンプラットフォーム。2021年11月に渋谷スクランブルスクエアで開催された「2nd Annicersary」にて、廃棄太陽光パネルをアップサイクルしたテーブルや端材を活用した世界に一つだけのファブリックブランド「anohi」を展示した。




③「世界を変える(肉好きのための)一週間のフルコース」

 
気候危機を引き起こす原因の一つである過剰な肉食を減らすために、(肉食を敵に回さずに)菜食中心の生活提案する「「世界を変える(肉好きのための)一週間のフルコース」。都内の飲食店「WE ARE THE FARM」との協働により、週6日の菜食+最終日に農園でバーベキューを食べるメニューを開発し、インフルエンサーを招いた体験の映像化による話題づくり、菜食中心生活の継続のための店舗やメディアと協働した菜食中心メニューの展開を準備中。(CREATIVITY FUTURE FORUM 2021にてセッションを実施した)




持続可能で「粋」な文化を創造していくために


ここまで第一期ゼミの総括と、そこから生まれ、社会実装中のプロジェクトを紹介してきたが、ぼくらの最終ゴールは、この東京から持続可能で「粋」な文化を創造していくことだ。「粋」とは江戸時代の武士や町人たちのもっていた美意識のこと。現代社会が便利で快適になった一方で、気候危機をはじめ多くの問題を生み出してきたのは、利便性や効率性、経済成長至上主義などの価値観に比重を置きすぎて、人としての「粋」という美意識をないがしろにしてきたからではないだろうか。



オランダの社会心理学者ヘールト・ホフステッドによれば、文化構造は価値観を中心に、儀礼・慣例、ヒーロー、シンボルによって重層的に成り立っているという。コロナ禍が世界を覆い、人々の価値観や経済、社会の「グレートリセット」を迫られている今こそ創造性によって、これらを一つ一つ書き換えていくことが求められている。この図はいわば、そんな持続可能な文化をつくっていくための創造性のターゲットだ。もちろん、文化は一朝一夕で生まれるものではなく、長年の人々の創造性と営為の集積によって形作られるもので、UoCも、ゼミもまだ始まったばかりだ。引き続き多様な人や団体、企業と持続可能な文化の創造という共通ゴールをもつ「仲間」として、ともに社会創造をつづけていきたい。

 


*1 David Robson, The '3.5% rule': How a small minority can change the world, Future Now, 14 May 2019.
*2 『DRAW DOWNー地球温暖化を逆転させる100の方法』
*3 太刀川英輔『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応』
*4 ヘールト・ホフステード『多文化世界 -- 違いを学び未来への道を探る』
*4 ラウス・シュワブ (著), ティエリ・マルレ (著) 『グレートリセット-ダボス会議で語られるアフターコロナの世界』

Catalyst
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近藤 ヒデノリ
PRESS 共同編集長/サステナビリティ研究領域フィールドディレクター/クリエイティブプロデューサー

CMプランナーを経て、NYU/ICP(国際写真センター)修士課程で写真と現代美術を学び、9.11を機に復職。近年は「サステナブルクリエイティビティー」を軸に様々な企業・自治体・地域のブランディングや広報、商品・メディア開発、イベントや教育に携わり、2020年に創造性の研究実験機関 UNIVERSITY of CREATIVITY(UoC)サステナビリティフィールドディレクターに就任。ゼミ「SUSTAINABLE CREATIVITY」実践編・探究編ほか、「Tokyo Urban Farming」「Circular Creativity Lab.」を主宰し、領域を越えて持続可能な社会・文化をつくる創造性の教育・研究・社会実装を行っている。 編共著に『INNOVATION DESIGN-博報堂流、未来の事業のつくりかた』、『都会からはじまる新しい生き方のデザイン-URBAN PERMACULTURE GUIDE』等。「Art of Living」をテーマとした地域共生の家「KYODO HOUSE」主宰。グッドデザイン賞審査員(2019年[取り組み・活動部門、フォーカスイシュー[地域社会デザイン]、2020年[システム:ビジネスモデル部門])他、審査員・講演多数。湯道家元で元バックパッカー、ハンモックとサウナとお酒が好き。

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