2022.10.11

創造性ゼミ 2022

【レポート】食にまつわる人の暮らし方(2022創造性ゼミ第2回)

創造性ゼミ2022 『食にまつわる人の暮らし方』ゼミの第2回レポートです!

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食にまつわるゲストと対話をしながら、自分の暮らしを見つめ直すワークショップ中心の本ゼミ。今回は対馬で野生鳥獣の捕獲解体と食肉加工、普及・教育に従事している一般社団法人daidaiの代表理事 齊藤ももこさんをお招きしました。

 
齊藤さんは幼少期から動物好きで、獣医師を目指して大学に進学。しかし「獣医になって何をしよう?」と悩んでいたところ、野生動物への関心が強くなっていったそう。大学には「野生動物学」という専攻はないので、さまざまな場所へフィールドワークに訪れ見識を深めていきました。特に各地で増え過ぎた野生動物が農林業や生態系へ影響を及ぼしていることを知り、本格的に「野生動物管理」に携わっていくことを決めたといいます。
 
齊藤さんと対馬との出会いは大学の際に参加した環境省のインターンシップがきっかけだったそうです。当時、対馬は、あらゆる場所にイノシシやシカの害に晒されていました。
 
齊藤「ツシマヤマネコの保全活動について学びに初めてインターンで対馬を訪れたとき、『ヤマネコの保護よりも、イノシシやシカをなんとかしてくれ』と地域の方が怒りを顕にしていました。今まで動物好きな人にしか会ってこなかったので驚きましたが、これがこの場所の現実なんだなと」
 
対馬は89%が山林で各地に原生林があり、大陸系・日本系・固有種・共通種というさまざまなルーツをもった生き物が生息しています。こうした複雑な生態系を保全し、農林業などの一次産業を推進するにも、増えすぎてしまったイノシシとシカの数や、これら野生動物による被害を適切に管理していく必要があります。
(そもそも、現在の対馬に生息しているイノシシは人間によって持ち込まれたものであり、シカも天然記念物指定をして一時保護をしたことで激増してしまったそうです。)
 
対馬で初めてイノシシの捕獲と解体に関わった際に、その肉のあたたかさに驚き、普段食べているお肉も「一つの命だったんだな」ということを改めて実感したそうです。その経験が、「獣害」ではなく「獣財」へ転化させていくdaidaiのベースになりました。
 
本格的に鳥獣被害対策に関わると決意し、対馬に移住を決めた齊藤さんですが、現状を調べる中で課題に感じたのが野生動物の捕獲にあたるハンターの深刻な高齢化でした。「殺生はよくない」というイメージもあり、移住してまもない頃はハンターになりたい若者がほとんどいない状況。10年後の山を守る担い手を増やすために、ネガティブな視点をポジティブに反転させる必要がありました。
 



まず、捕獲への関心を高めるために良いイメージを普及させる上で、ハンターが捕獲したイノシシやシカを「美味しいジビエ」として活用することに。当初はジビエに対しても「汚い」というネガティブなイメージが多かったため、対馬市は衛生管理のガイドラインを制定し、安心・安全を確保。大学との共同研究で、家畜同等以上の衛生的な食肉が作れているというデータも得ることができました。これによって、子どもたちにジビエ給食を提供させることが可能になり、食育を通じて有害鳥獣被害の現状を知ってもらえる場ができました。その他にも、解体体験・レザー加工体験をしてもらうことで、野生動物管理への入り口を多様化させていき、結果として最近は20代のハンターも生まれてきたそうです。
 
齊藤「野生動物による被害は結果にすぎないんです。被害を出すようになった原因はシカやイノシシの増加であり、彼らの個体数を増加させた原因は人間の暮らしや経済活動の変化です。一次産業が衰退し、里山が放棄されるようになったことが結果として野生動物の個体数増加につながり、被害が目立つようになっているのです。なので、イノシシやシカの被害を本当に減らそうとするのであれば、地域の一次産業を応援し、放棄された里山が再び使われるようになるような暮らしに価値を置く人材・社会を創造する必要があると思います。」
 


ゼミの後半では肉を知るために、対馬のイノシシ肉・シカ肉を部位別に並べ観察し、牛豚鶏も加えた食べ比べを行いました。味だけではなく見た目や匂い、食感を、曖昧な感想ではなくちゃんと言語化することで、記憶に残す作業です。答え合わせをしてみると、予想とは違う部位もあり、非常に興味深い体験でした。ジビエは野生のお肉なので個体差が大きく、産地・時期・調理法によって味が著しく変わります。「美味しい」という感覚はとても複雑で、変数が多いのです。
 




続いてゼミ生からの質疑応答に。主だったところを挙げると、
 
Q「全国の捕獲量の一割しかジビエとして流通していないと聞いたんですが、何故ですか?」
 
齊藤「まず、小さい個体を捕獲しても、可食部が少なくて食肉にできないんですよね。捕獲した時点ですでに死んでいればジビエにはできない。また、解体処理場を作らないと流通できないので、そのコストをかけられるハンターさんが少ないという理由があります。実は、施設は基準を満たしていれば誰でも作れるんです。免許などは必要ないんですね。家畜の解体・出荷には「と畜場法」と「食品衛生法」の二つが適用されるんですが、ジビエは「と畜場法」適用外なんです。その分、消費者のリテラシーも問われるんです」
 
Q「対馬のジビエを全国に広げるには?」
 
齊藤「これまでも大企業が参入しようとして上手くいかないことが何度かありました。野生のものなので、均一化が難しい。また、鳥獣被害は全国的な問題であり、同様にジビエ開発に取り組んでいる地域が多々あるためブランド化が難しいんです。健全に広げていくためにもビジネスモデルを構築する必要があるんですけど、そのアイディアをみなさんに聞きたいですね(笑)。」
 
Q「今後の課題だと思っていることは?」
 
齊藤「自分一人で頑張ってると、多様性が失われちゃう気がするんです。同じ人たちが会議に出て、ずっと同じ話をしている危機感を知っているので(笑)。一線を退いて、次の世代にバトンタッチするタイミングを考えています」
 
daidaiの活動は齊藤さんの「島での暮らし」と密接に関わっており、ただの食肉としての「ジビエ」ではなく猪鹿を取り巻くさまざまな事象と、人間の営みについて考えさせられる会となりました。
 

 


Catalyst
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小枝指 来実
フードデザイナー

学生時代よりCM、映画等の撮影に関わり、美味しく写るものづくりに携わる。 「象の鼻テラス」フードディレクターとして食を通じた場づくりを、藤沢SST内にある「食とものづくりスタジオ FERMENT」では施設運営とワークショップのプログラムづくりを行う。その他、山形「食堂nitaki」マネージャー、富士通デザイン「CREATIVE SNACK」開発アドバイザリーなど。食やコミュニティを中心としたカタリストとして活動中。

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