2022.6.3

創造性ゼミ 2022

【連載】カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ (2022創造性ゼミ第2回)

2050年カーボンニュートラル宣言。脱炭素の挑戦をブレーキではなく成長のエネルギーに変えることでこの目標を達成できないか?というのが産業経済社会が抱える最大の課題です。

この課題に対して経済、テック、哲学、文化…さまざまな世界の第一線で活躍するチャレンジャーをゲストに迎え、その刺激を浴びながら議論と創発を行い、連携して複数のプロジェクトを立ち上げることを目指す「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」での講義と議論の模様を、毎週金曜追加更新の形で配信動画と参加者によるレポート記事としてお届けしていきます。


田村 裕俊

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こんにちは、『カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ 』ゼミ でアシスタントをしています、大学院修士2年の佐々木です。

今回はゲストに前田雄大さんをお迎えして行われた、3月28日 第2回のゼミの様子についてレポートします。






3月14日に行われた第1回目で、ゼミの参加者1人ひとりの自己紹介とガイダンスを行い、いよいよこの第2回目から、ゲストの方を招いた、本格的なゼミが始まりました。

 

本日のゲストは前田雄大さん。外務省職員としてG20大阪サミットやパリ協定など、気候変動に関わる国際会議に関わった後に、脱炭素メディア「Energy Shift」やYoutube チャンネル「GXチャンネル」の運営に携わり、国際的な視点から脱炭素についての情報を発信されています。



前田さんの講義の話をリポートする前に、このカーボンニュートラルと創造性ゼミについて、簡単に説明を。プログラムディレクター、田村裕俊さん( UNIVERSITY of CREATIVITYでは「ひろさん」と呼ばれています)が今回のゼミの冒頭で話した内容をご紹介します。

 

現在私たちは、気候変動という課題に直面しており、2050年までにCO2排出量をゼロにするカーボンニュートラルの実現に向けて社会全体が動きつつあります。

ただ、今まで行ってきた産業・生活にブレーキをかけるだけでは、経済も成長せず、生活も豊かでなくなってしまいます。

 


経済の成長、生活の充実も同時にもたらすような、カーボンニュートラルの実現。その方法を、創造性を駆使し、社会で働く人として、地球に暮らす人として、全人格的に考えていく。そして最終的には参加者1人ひとりが、ゼミで得たアイデアを元に、産官学民様々な立場で脱炭素に向けて、創造的な仕事を実行に移していく。そのための場所として、このカーボンニュートラルと創造性ゼミが立ち上がったのです。



それでは前田さんの講義の内容に移りましょう。「盛りだくさんの内容にしたから、予定時間内に話しきれるかどうか」とおっしゃっていた前田さんでしたが、その宣言通り、密度の濃い60分が展開されていきました。

 

まずは前田さんの外務省時代の経験から伺いました。前田さんが2017年に外務省で気候変動の担当になった時、肌で感じたこと、それは気候変動に対する各国の執着でした。国際会議もなかなか合意に至らない。それはこのテーマに、国益がダイレクトに関わっていることの証左である、と前田さんは言います。

 

そうした状況の中で、前田さんが担当されたのがG20大阪サミットでした。日本は議長国として合意形成をし、採択を取りまとめることが求められていましたが、気候変動が大きなテーマだったこともあり、会議は紛糾が予想されていました。しかし蓋を開けてみると、G20で採択した文章を、国数も少なく、より議論が纏まりやすいG7が引用するほど、各国が足並みを揃え、大阪サミットは成功を修めました。

 

こうした経験を通じて前田さんは、気候変動に関する国際的な流れに着目し、日本の今後を占う上での重要性を指摘します。この世界規模で起こっている流れを3つのポイントに分けると、以下のようになります。まず1つ目が、炭素を排出することが、コストになる未来が見えてきたこと。2つ目が、エネルギーという国家にとって重要な部分について、これからルール変更が起きることが予見されたこと。3つ目が、金融やサプライチェーンも政策に同調して、気候変動対策に舵を切る動きを見せていること。




一体、なぜこんなにも世界は気候変動に対して動き始めているのでしょうか?

というのも、気候変動をめぐる議論は昔から行われており、1990年代には既に国連の場で気候変動について話し合われていながら、最近になるまでその歩みは停滞したままでした。どの国も、気候変動への対処の必要性は感じつつ、それを実行に移すことはなかったのです。

 

この現象は、経済学の観点で見ると原因がよく分かる、と前田さんは言います。経済成長をするためには、炭素を排出しなくてはなりません。そのため、気候変動の対処の必要性を自覚する一方で、自国の経済成長も重要視する国にとっては、炭素削減は他国にやってもらい、自分はこれまで通り炭素を排出する、というのが最も合理的な選択になります。そして全ての国がそうした選択を行った結果、結局どこも炭素を削減しない、という状況に陥りました。この状況は、どの国も合理的に判断した結果なので、なかなか変えることが難しいのです。(経済学のゲーム理論という分野では、この状況をナッシュ均衡と呼びます)

 

しかし近年、状況が大きく変わりました。それは太陽光発電のコストが大きく下がり、一部の国では、化石燃料よりも電気を生み出すコストが低くなったのです(ただ日本は国土も狭いこともありまだ化石燃料の方が、コストが低い)。世界を見渡すと、それまでは気候変動を止めるため、仕方なくコストの高い太陽光を使う、という考えでしたが、気候変動は関係なしに、安いという理由だけで太陽光が選ばれるようになっているのです。これこそ、世界の政治、経済、産業が、共に脱炭素に向かっている理由です。

 

つまり、世界の脱炭素の盛り上がりは、それが環境の話だけではなく経済の話であるという認識によって、日本とはレベルが大きく違う、ということに私たちは留意する必要があるのです。



そしてこれからの脱炭素を考える上で注目すべき国・地域として、前田さんは欧州、米国、中国を挙げます。

 

例えば欧州では、風力発電に強みを持っていることを生かし、国境炭素税を導入し、化石燃料を国際的に削減しようとする動きがあります。

一方中国は、現在は石炭火力に依存している一方、蓄電池に強みを持っており、脱炭素の流れに乗り、蓄電池のシェアを広げようとしています。

そして現在のアメリカは、中国を牽制するため、脱炭素の流れを世界的に推し進める一方、蓄電池の分野でリードしている中国に対抗するために、蓄電池を自国で生産することに力を入れ始めています。また、自国の脱炭素を実現するべく電気生産のカーボンフリー化を目指して動いています。

これらの国々は、それぞれ違った思惑はあるものの、どれも脱炭素、特に電力の脱炭素化に向かっています。この事実と先ほどの再生可能エネルギーのコスト低下を併せて考えると、世界の脱炭素化、再生可能エネルギーの拡大は必ず起こるだろう、と前田さんは指摘します。





そして最後に前田さんが明らかにしたのが、ウクライナ情勢も、世界の脱炭素化の流れと大きく関係している、ということでした。ロシアは、化石燃料の輸出に経済を依存する一方、欧州も、エネルギー源の化石燃料をロシアに依存していました。欧州のこれまでの安全の裏には、こうした相互依存の関係性があった、と前田さんは分析します。脱炭素を推進し、相互依存を抜け出そうとする欧州に対し、焦りを感じたロシアが、切り札としてエネルギー供給を断ち、その存在感を意識させようとした。このことが、現在のロシアと欧米の対立の一因になっています。

 

ロシアが化石燃料の輸出を止めたことで、現在は化石燃料が重要なものになっていますが、やはり長期的に見れば、脱炭素に向かうことになる、というのが前田さんの見立てです。それはこのウクライナ情勢で、エネルギー源を他国に依存することのリスクを、各国は感じるようになったからです。再生可能エネルギーであれば、資源を他国に依存する割合は少なくて済みます。






こうして世界の脱炭素に向かう流れは不可避なものになった今、企業はこの流れをどうやってビジネスチャンスに生かしていくか。前例が無く、速い速度で変化していく社会に対応していくには、創造性の発揮が必要とされる、という提言で、前田さんの話は終わりました。

 

この前田さんの話を受けて、ゼミ生の質問がありました。

 

まず、日本固有の制約と、それに対する活路について尋ねる質問がありました。それに対して前田さんの回答は、日本はやはり地理的な条件による再生可能エネルギーのコストの高さが制約になるものの、洋上風力が切り札になるかもしれない、という考えが日本政府の文書から読み取れる、というものでした。洋上風力の生産では、日本のものづくりの力を生かすことができます。





また印象的だったのは、こうした脱炭素に取り組む人を、どうやって企業内から出していくか、という質問に対する前田さんの回答でした。前田さんは、一社の中だけでなんとかするというよりも、企業同士で連携していく方が重要であると答えました。企業の枠組みを超えた、横の結びつきを人為的にでも作っていくことが、前例の無い変化の中で、創造性を発揮する鍵になる。このUNIVERSITY of CREATIVITYのゼミが存在している理由も、まさにこの点にあると思います。ゼミを通して、新たな繋がりが生まれ、この前例の無い時代をチャンスに変えるようなアイデアが生まれることを目指して、これからもアシスタントとして携わっていきたい、と思っています。




Catalyst
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前田 雄大
EnergyShift発行人兼統括編集長

2007年外務省入省。入省後、開発協力、原子力、官房業務等を経験した後、2017年から2019年までの間に気候変動を担当し、G20大阪サミットにおける気候変動部分の首脳宣言の起草、各国調整を担い、宣言の採択に大きく貢献。またパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略をはじめとする各種国家戦略の調整も担当。こうした外交の現場を通じ、国際的な気候変動・エネルギーに関するダイナミズムを実感するとともに、日本がその潮流に置いていかれるのではないかとの危機感から、自らの手で日本のエネルギーシフトを実現すべく、afterFIT社へ入社。

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