2022.7.22

創造性ゼミ 2022

【連載】カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ (2022創造性ゼミ第9回)

2050年カーボンニュートラル宣言。脱炭素の挑戦をブレーキではなく成長のエネルギーに変えることでこの目標を達成できないか?というのが産業経済社会が抱える最大の課題です。

この課題に対して経済、テック、哲学、文化…さまざまな世界の第一線で活躍するチャレンジャーをゲストに迎え、その刺激を浴びながら議論と創発を行い、連携して複数のプロジェクトを立ち上げることを目指す「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」での講義と議論の模様を、毎週金曜追加更新の形で配信動画と参加者によるレポート記事としてお届けしていきます。


田村 裕俊

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7月4日に行われた第9回のゼミ。

今回はゼミに参加しているICU2年生副田がレポートします。

3月のなかばから始まったこのゼミも、早くも9回を迎えてゲストを迎えての講義は最後の回となった。今回のテーマは「コスタリカ 再エネ99%を可能にした社会基盤 」。ジャーナリストの伊藤千尋さんをゲストに迎えて、開発途上国である中南米の小国コスタリカになぜ環境意識が根付いたのか、そして実際に再生エネルギーの主電源化を実現することができたのかを伺った。

伊藤さんのお話は民主主義や平和、幸福感など、環境の問題に留まらず現下の数多くの社会問題に通底するものに触れていて、様々な観点でコスタリカから学びを得ることができることを知った。伊藤さんの優しげな語りを通して、遠い南国から「プーラ・ビータ!(美しい人生を!)」と、経済発展と持続可能な社会の実現に向けて背中を押されるような回であった。


伊藤千尋さん


コスタリカとはどんな国か?

伊藤さんはフリーのジャーナリストとして活動をされる前に、朝日新聞社で国際分野の取材を担当していた。サンパウロ支局長、バルセロナ支局長、ロサンゼルス支局長などを歴任し、世界中を駆け回っていた。数多の国々で現地取材をしてきた中でも特に興味を抱いたのがコスタリカであったという。コスタリカの国名の由来は諸説あるが、coast rich。海から見たときの豊かな緑溢れる海岸に感動して付けられた名前だそうだ。そして地形はよく日本と似ていて、海に囲まれ高い山々があり、その山々のほとんどが火山である。経済はというと、農業が中心で一人当たりGDPが世界76位の開発途上国であるが、一方で国連の「世界幸福度報告書」では2020年に15位となり 、途上国で1位となった。また、経済が発展しない中でも高い民度を背景に、環境立国・平和立国・教育立国の3つを実現するに至った国である。



コスタリカと環境

コスタリカは地球の0.03%の国土であるが、そこに地球上の6%の生物種を抱える。それは生物が住みやすい風土を作り上げた賜物であるという。だから、コスタリカには動物園がない。「動物が檻に閉じ込められて見せ物にされるのはよくない。人間の方が自然の方に見に行けば良いのだ。」という考えをコスタリカの人々は持っているらしい。また、開発を進めじっさいいるため、国土の4分の1が国立公園や自然保護区に指定されている。政府は憲法に環境権を導入し、憲法には「すべて国民は健康で生態的に均衡の取れた環境に対する権利を持つ」と明記されている。

そんなコスタリカで、伊藤さんがコスタリカの環境への意識の高さに驚いたエピソードを挙げた。

モンテベルデ自然保護区というエコツーリズムの聖地を訪れた時、伊藤さんはとあるロッジに宿泊した。そこで、雨の中荷物運びを手伝ってくれたホテルのフロントの人がまさかコスタリカの元大統領カラソ氏だったという。彼は大統領の任期を終えたのちに市民として社会に尽くすために、自分ごととして環境を考えられる施設を作ろうと思い立ち、エコツーリズムを行うロッジを建てて自らが管理人になったそうだ。彼は他にも国連平和大学の創設を国連総会で提案して実現させたりと、まさしくコスタリカを体現しているような政治家だ。政治の道を進むと肩で風を切って歩くようなタイプの日本の政治家とは対照的だなとも思ったりする。



しかし、コスタリカの環境保全には実は日本政府が大きく関与しているという。コスタリカは再生可能エネルギーでほとんどの国内の電力を賄っている。大部分が地形を活かした水力発電であるが、それに次ぐのが地熱発電である。その地熱発電の技術提供と発電所建設の支援を日本政府が行っていた。一方で、先進国と呼ばれる日本では再生可能エネルギー化が注目され、どうにか持続可能なエネルギー供給を実現しようと模索している。早くに導入を実現しているコスタリカは先見の明があったと思えるが、単に貧しい国だから、あるもので済ませようと考えた結果らしい。まさに「正しい貧しき者の発想」と言えるだろう。

 

武器のないコスタリカ

コスタリカは日本に次いで世界で二番目に憲法を通して平和を宣言した。そして実際にも軍隊を一切なくすことに成功し、コスタリカには軍隊・戦闘機・戦車といったものは皆無なんだそうだ。

平和立国を表すものとして、とある博物館に刻まれた文言がある。そこは元々兵舎だったそうで、軍隊がないのだから、兵舎はいらないとのことで博物館へと様を変えたのだ。そこには「武器は勝利をもたらすが、法律のみが自由をもたらす」と書かれている。自由を獲得するのに必要なのは力ではないことをコスタリカは身をもって学んだのだ。

そしてコスタリカは自国で平和を実現するのに留まらなかった。平和を世界へ輸出する。コスタリカには国連平和大学があり、世界50カ国から平和を学びに来る人が集まる。

そこでは平和学が中心に学ばれ、世の中から戦争をなくすだけではなく、貧困・抑圧・差別などの構造的暴力がない状態を目指し、「積極的平和」をいかに実現するかの研究が行われている。


幼い頃から「人から愛される権利」と対話を学ぶ

コスタリカからは軍隊がなくなった。そして同時に国家予算から軍事費を捻出する必要がなくなった。そこで、予算を何に投じれば社会が良くなるか議論が行われ、それは教育であると結論が出された。それ以来、毎年、教育には国内総生産(GDP)の8%以上をかけなければならないとまで憲法に明記されている。よって、高校まで13年間の義務教育と給食までもが無償で、大学も学費が格安となっている。

コスタリカの教育では何を学ぶのか。コスタリカの教育の目的はだれもが一市民として国や社会の発展に寄与でき、一人の人間として意識でき、何よりも 本人が幸せであること。昨今では人生設計が教育カリキュラムに取り込まれた。そこで一番に学ぶことは人は誰しもが「人から愛される権利」を持つということ。コスタリカは誰も取り残さない社会であることを教育を通じて小さな頃から学び、自らは孤独を感じなくて良いという安心感を得るのだ。



コスタリカでは積極的に民主主義の学びが実践される。まず小学校の机が四角ではなく、台形なのだ。6人が囲んで机を合わせて六角形を作り対話を行うことを前提として設計されている。小さな頃から自分自身の意見を形成し、さらにその意見で説得を試みる訓練が行われる。そして実際に、コスタリカでは小学生でさえも違憲訴訟ができる。名前・連絡先・不満を抱いた内容の三つを書くだけであとは裁判所が正式な訴状に整え、政府を訴えることができる。実際に、大学生が大統領の外交政策を違憲状態であるとして訴えて勝訴となった事例もある。こうして環境立国・平和立国・教育立国たる社会基盤の民度が築かれたのだ。そして最後に改めて、人に優しい国はいかに創られたか。

やはりまずは、貧しい開拓移民が市民として力を合わせて創った対話型の社会と自由の尊重、階級や階層がないという社会構造がある。そして、鉱物資源がない貧しい国だからこそ、すでにあるもので豊かさを生み出し、理想とする社会を実現するために積極的に民主主義の土壌を守り続けた賜物であると伊藤氏は締めくくった。

 

ないものねだりな秋になにを思うか

どんな会であったか、そして学びとして自分にどのようにこの会が残されたのか、まとめ方が難しいが一ゼミ生の自分はある時にこんな歌に出会い、この会を思い出したということを紹介したい。

月見れば ちぢに物こそ 悲しけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど

大江千里(おおえのちさと)「古今集」

秋に入ると人は夏の出来事を思い返し、秋の忙しなさや肌寒さを憂いてない物ねだりを始める。今の世の中もあの頃は楽しかったと思い返してばかりで、これからくる寒そうな世に怯えながら過ごしている。そんな寒い世は自分だけが迎えるわけではないのに、なんだか孤独を感じる。しかし、夏と比べれば渋みがあるかもしれないが秋にもたくさん良いものがある。今の世の中にも探そうと思えば良いものがたくさんある。世の中の人は冬が来ることを憂い、嘆くかもしれない。それでも、その中でも楽しいものを探す、素敵なものを探す、そして豊かさを得ることはできるのではないだろうか。

まずは今を、自分を大切に、そこからちょっとずつ今あるものから見つめ始めて、発展と持続可能性を考えていけたらと思う。辛さを感じているのは多分、自分だけじゃないはずだ。世知辛い世の中、自らの将来のことを考えて月を眺めて物思いに沈んでいた時、蒸し暑かった東京のど真ん中で聞いた伊藤さんの優しげな語りを思い返して、そんなことを思った。


Catalyst
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伊藤 千尋
国際ジャーナリスト

1949年、山口県生まれ。東京大学法学部卒業。1974年、朝日新聞に入社。サンパウロ支 局長、バルセロナ支局長、ロサンゼルス支局長などを歴任、40年にわたり主に国際報道 の分野で取材を続けた。2014年に朝日新聞退職後も、フリーのジャーナリストとして各 国の取材を続け、これまで世界82カ国を現地で取材した。「コスタリカ平和の会」共 同代表。「九条の会」世話人も務める。 主著に『非戦の誓い~「憲法9条の碑」を歩く』(あけび書房)、『連帯の時代-コロ ナ禍と格差社会からの再生』『凛とした小国』『心の歌よ!Ⅰ~Ⅲ』(以上、新日本出 版社)、『世界を変えた勇気―自由と抵抗51の物語』(あおぞら書房)、『13歳からの ジャーナリスト~社会正義を求め世界を駆ける』(かもがわ出版)、『反米大陸』(集 英社新書)、『燃える中南米』(岩波新書)など。

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