2022.7.8

創造性ゼミ 2022

【連載】カーボンニュートラルと創造性 ~脱炭素による経済発展を自分の仕事にしてみよう~ (2022創造性ゼミ第7回)

2050年カーボンニュートラル宣言。脱炭素の挑戦をブレーキではなく成長のエネルギーに変えることでこの目標を達成できないか?というのが産業経済社会が抱える最大の課題です。

この課題に対して経済、テック、哲学、文化…さまざまな世界の第一線で活躍するチャレンジャーをゲストに迎え、その刺激を浴びながら議論と創発を行い、連携して複数のプロジェクトを立ち上げることを目指す「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」での講義と議論の模様を、毎週金曜追加更新の形で配信動画と参加者によるレポート記事としてお届けしていきます。


田村 裕俊

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UoC「カーボンニュートラルと創造性ゼミ」

第7回「スウェーデン 経済と環境のデカップリング」レポート

(2022年6月6日開催)

 

日本では、2020年10月、菅首相の所信表明演説で、2050年カーボンニュートラル実現が表明されてから、12月にてカーボンプライシング導入の検討が指示され、21年10月には、再エネ比率を2030年に36-38%にする計画が閣議で決定されるなど、脱炭素社会の構築に向けて激しく動いている。今回は、スウェーデンの経済成長と環境保護の両立に成功した事例を学び、今後の日本、世界の脱炭素について考えるきっかけを得ることが出来ました。

一部、ゼミの内容を報告します。(レポート:ゼミ生最年長のたくろう)




日本が温暖化対策に遅れた理由と今後取り組むべきこと


初めに、日本の現状と先駆的に温暖化対策に取り込めなった理由をまとめて教えていただきました。それは、

1)日本がすでに世界最高水準のエネルギー排出削減技術をもっていた 

2)日本は石油ショック以来、省エネに取り組んできていた 

3)更なる排出削減費用は経済成長にマイナス 

と考えられていた点にあります。これらについて、諸富教授は、日本のエネルギー生産性の推移を示しながら、我々に間違っていることを示してくれました。

日本は1973年の第1次石油ショックから1985年のプラザ合意までの期間、製造業のエネルギー消費原単位は著しく減っているものの、それ以降は、エネルギー消費原単位は減っていない。一方、90年代後半以降は、主要国が生産性を高めて、日本を抜き去っていた。つまり、日本のエネルギー削減技術は、もはや最高水準ではない、あるいは、削減技術が高くても付加価値の創出に結びついていない可能性があるとのことでした。

日本は、このエネルギー消費原単位を下げるには、GDP・付加価値を上げながら、炭素投入量を減らしていくという同時解決が必要だと、諸富教授は説いておられました。私たちのイメージとは少し異なる日本の現実を確認することからゼミは始まりました。







スウェーデンでは経済成長と環境保護が両立できた


GDP・付加価値(≒経済成長)を高めながら、炭素投入量が減らせるという同時解決がそもそも出来るのかが、今回のゼミのテーマでもあります。

まず、スウェーデンは、1990年から2017年の間に、経済(GDP)を成長させて(+78%)、CO2の排出量を削減(-26%)してきたことを示していただきました。この状況を示すGDPとCO2排出量のグラフは、日本のグラフと比較すると衝撃的でした。

このスウェーデンにけるデカップリングの実現には、カーボンプライシング、炭素税の導入による効果が大きいとのことです。日本にはまだなじみのない炭素税ですが、スウェーデンでは91年に世界で初めて導入し、年々税率をあげています。しかも、ヨーロッパの炭素税を導入している他国と比べても税率は高い。

にもかかわらず、スウェーデンでは、経済成長率を高めて、平均賃金を他国よりも高めて、デカップリングを実現しています。

では、なぜ、スウェーデンでは、見事にデカップリングが実現できたのか?理由を次のように示してくれました。

1) デジタル化サービスなどの知識産業への産業構造の転換ができたこと

2) カーボンプライシングが、環境改善投資を喚起し企業の競争力向上を促したこと

3) 低環境負荷商品・サービスを先導し市場で有利な地位を確保できたこと

 

1)3)に関しては、スウェーデンの企業は、ボルボに代表される製造業が変化しているのに加えて、IKEA, H&M, Spotify, Skype など新興企業が生まれていることからも我々もイメージが出来ました。2)では、鉄鋼産業の事例などにより詳しくご説明いただくことで理解することができました。このような動きは、世界的な再エネコストの急速な低下なども背景にあったといいます。

次に我々は、1)2)3)を下支えしていたのが、スウェーデンの経済政策であるということを学んでいくことになります。



 

人的投資の重要性


スウェーデンのGDPを押し上げてきたのは、一人当たりの生産性をあげてきたことにあります。一人あたりの生産性をあげるには、一人ひとりが、効率よく、より付加価値の高いものを生産してきたことを示しています。これを実現できたのは、スウェーデンの人的資本投資政策による効果が大きいとのことでした。教育の無償化および教育訓練の充実化に、加えて、より収益性の高い企業や産業への人的移動も促しているということを教えていただきました。これが、産業構造の変わり身の早さを生み、企業の新陳代謝なども加速していったことも理解することが出来ました。

スウェーデンの話のあとに、日本は人的投資が軽視されてきた点がデータで示されました。公的にも、民間企業においても、人的資本投資が少なすぎる点を紹介していただきました。日本では終身雇用の文化が根強く、自分のキャリアップの考えは他の国と比べると弱いことも知っていますが、データを見て改めて、人的投資の重要性を考えるきっかけとなりました。

 



グローバルの中の日本とは?

 

 ゼミの終盤は、諸富教授とのディスカッションをさせていただきました。貴重なお話もお聞き出来、非常に充実した時間だったと思います。スウェーデンのお話を聞いて、日本では同じことを実施することは難しいと感じたゼミ生も多かったのではないかと思われます。質疑応答の中では、スウェーデン人の気質などに関することや、今の日本が生かせる点や足りない点などにテーマが広がっていきました。

個人的には、グローバル化に対応し、脱炭素やSDGsに関して、グローバルで強い存在感やリーダーシップをとるには、日本の経済・文化を理解したうえで、日本流のやり方を考えて、行動に移すしかないのだということをしみじみと感じました。

 

 最後に、諸富教授の「資本主義の新しい形」は、非常にわかりやすい本で、今回のゼミの内容が多分に盛り込まれておりました。ゼミの内容と合わせて、もう1度、しっかり読んで脱炭素社会に向けて取り組むヒントを考えて参りたいと思います。

 



Catalyst
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諸富 徹
京都大学大学院経済学研究科/地球環境学堂教授

1968年生まれ。1993年同志社大学経済学部卒業。1998年京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。1998年横浜国立大学経済学部助教授、2002年京都大学大学院経済学研究科助教授、2006年同公共政策大学院助教授、2008年同大学院経済学研究科准教授を経て、2010年3月から現職。この間に、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員、放送大学客員教授(放送授業担当主任講師)を歴任。2015年4月より、ミシガン大学グロティウス客員研究員(Michigan Grotius Research Scholar)、および安倍フェロー(以上、2016年3月まで)を務めた。2017年4月より京都大学大学院地球環境学堂教授、2021年4月より京都大学教育研究評議会評議員および経済学研究科副研究科長を併任。 主著に、『環境税の理論と実際』有斐閣(2000年:NIRA大来政策研究賞、日本地方財政学会佐藤賞、国際公共経済学会賞を受賞)がある。他に、『環境〈思考のフロンティア〉』岩波書店(2003年)など。 環境省「中央環境審議会」臨時委員等の役職を歴任する。

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