2022.8.4

創造性ゼミ 2022

TUF|CCL 〜創造性で都市の暮らし・文化を粋に”再生”しよう(2022創造性ゼミ第8回)

「都市の暮らしと文化を粋に再生する」ことを目指して、「Tokyo Urban Farming」と「Circular Creativity Lab.」という二つのプロジェクトを組み合わせて探求してくゼミは、まず参加者全員で瞑想するところからスタート。8回目となる今回は、ゲストを2組を招いて行われた。

近藤 ヒデノリ

#SUSTAINABLECREATIVITY  #CIRCULARECONOMY  #サステナビリティ  #Circular Creativity Lab  #Tokyo Urban Faming 


まず、食を中心に据えた「日常とアートの融合」を模索しているシェフ、ジェローム・ワーグ氏。フランスで生まれ、サンフランシスコで30年過ごした彼は、アメリカで最も予約が取れないと言われるバークレーのレストラン「シェ・パニーズ」の料理長を務めた。ちなみに、オーナーは世界的に有名なオーガニック料理の母 アリス・ワォーターズ。アメリカの食文化そのものを覆すパワーを持ち、ヘルシーなイメージが定着した「カリフォルニア料理」のパイオニアだ。
「食べること自体も大好きだし、とてもやり甲斐がある仕事だった」とジェローム氏は語るが、一方で「何か足りない」とも感じていた。その「何か」を見つけるために、30代前半からアートの道へ。両親ともにアーティストだったことからの影響もあったという。
セラピー的なアートスタディを重ねることで、禅にも興味がわき、なんと2年間山奥の寺院に籠って修行の日々を送った。
そこで「自己は構築されている」という仏教の気づきを得て、アートとしてアウトプットしながら、さらにその青写真を探っていった。そうやって自分を再発見したという。
あまりにも思索の探求が生活の大部分を占めるようになったことで、自分と日常が乖離するようになった。

ジェローム「レストランのスタッフが髪を切ってきたんだけど、それだけで誰かわからなくなってしまったんだ(笑)。なんとかしなくちゃいけないと思ったよ」


思索と日常の両者を結びつけるために始めたのが「オープン・レストラン」。「水」など毎回大きなテーマを掲げて、アーティストのパフォーマンスやインスタレーション、ワークショップ、サウンドスケープなどが開催され、その中心に「人々が集まるメディア」としてレストランが置かれている。フルクサス(リトアニア出身のデザイナー、ジョージ・マチューナスが60年代に牽引した芸術運動)の影響もあり、「アートは日常生活を、アートそのものよりも豊かなものにする」という考えのもとに行われた。
また、家庭菜園などサンフランシスコの街中から食材を集めて調理する、都市型の地産地消の実践ともいえる「URBAN FERMERS GARDEN」というイベントも主催した。
 
ジェローム「一人で調理する料理は想像がついてしまう。オープン・レストランはさまざまな人が集まることで、とても刺激になるんだ」

そして、6年前に東京に移住。神田で自然派レストラン「The Blind Donkey」を開店。店名は「瞎驢眼」(目が開かないロバの眼)という15世紀を生きた伝説の禅僧、一休の逸話に由来している。
もともと日本映画などのカルチャー(特に黒澤明や大島渚、小林正樹の「怪談」がフェイバリット)に親しんでいたそうだ。
 
ジェローム「東京は色々な時代、伝統、文化、技術が入り混じっていて、とても複雑な魅力がある。でも、友達の家に集まってご飯を食べるような、気安いカルチャーがあったらいいなと思うよ」


続いては、和紙職人の川原隆邦氏。富山県に400年前から伝わる「蛭谷和紙」、唯一の後継者だ。
原料である楮(こうぞ)を自ら育てるところから和紙を作っている川原氏は、今「野菜和紙」の製作に取り組んでいる。ニンジン、ホウレン草、ネギ、キュウリ、トマトの実と苗など、さまざまな野菜を和紙に漉き込んでいるものだ。輪切りや縦切りの断面など野菜そのものが持つ美しさが、和紙に新しいデザイン性と手触りを持たせている。
掛け軸サイズの野菜和紙を目の前にしたゼミ参加者たちは、実際に見て触ることでその革新性を実感したようだった。
 
川原「和紙は伝統の世界だからこそ、進化がストップしているんです。この野菜和紙も、正統派からしたら邪道かもしれない。しかし、既成概念を壊すような「必要悪」にならなといけないんです」


和紙のサイズを大きくすることで、包み込むような表現が可能になり、より多くの人にアピールすることができるようになる。このようなアイディアとデザインを伝統的な技術に組み込むことによってアートに昇華させる試みだ。
 
川原「実際に触りたい、より近くで見たいという気持ちを呼び起こさせる力が和紙にはあり、これは洋紙にはないものです。光で透かすと見え方が変わるという特性もありますし。紙は文字を伝えるものですが、それは思いや哲学を伝えるということでもあるんです」


こういった思いがこもったアート作品になれば、簡単に捨てられることはない。野菜を、廃棄はもちろん、リサイクルという循環にも乗らない存在にするということでもある。
野菜和紙を知らしめるためにはヴィジュアル的なわかりやすさと清潔感が必要であり、そのためには形のいい野菜を選ばなければならないが、今後は廃棄野菜を積極的に使っていきたいとも語っていた。
 
この野菜和紙とTokyo Urban Farmingのコラボレーションとして計画されているのが「Tokyo野菜和室」だ。野菜和紙に囲まれた茶室で、野菜を煎じたお茶を飲む体験。東京野菜のアートエクスペリエンスであり、Tokyo Urban Farmingの理念を精神的に感じるための催しだ。
 
ジェローム氏からは、「田んぼの中に稲の野菜和紙で囲んだ空間を作り、その中で寿司を食べるのはどうか?」という提案もなされた。その際には、伊勢の黒米(古代米の一種)など、近代化するにあたって忘れられたものを活用することで、より食のストーリーを重層的に感じられるようにするとさらにいいそうだ。
 
オープン・レストランと野菜和紙。とどちらもただ「美味しい」というだけにとどまらない「食哲学」とも呼べる活動だ。「食べる」という行為は全ての生き物が無関係でいられず、これまでの歴史・文化・思想が色濃く反映された実践の積み重ねである。
そういったことを改めて感じさせてくれるとともに、これからの「食文化」についてのクリエイティビティを大いに刺激される時間となった。